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「中国は側室を設けるというけど、天籟はどうなんだい?」
「天籟では側室は置かない」
「ふうん。姫の姉上で結婚している人は?」
「いない」
「母親は? その兄弟とか」
「調べれば分かるだろう。今上陛下は七人産んで、ひとりだけ夭逝なさった。その妹姫は嫁がれた先で四女を設けている。──どうしてそれを僕に聞く」
ハンスの笑顔は不気味だ。口元だけで笑い、目に表情がない。
墨を見る視線に一切の遠慮がなく、その不気味さはひたひたと体中を撫でるように広がって行く。
「今回、公国からドレスとティアラが贈られたんだよね」
「……それが」
「あれは、実はとっても由緒があるものらしいんだ。知ってるかい、今の大公殿下のおばあさま──つまり、姫の夫たる公子の祖母はロシア帝国ロマノフ家の皇女。嫁入りにとても大きなアレキサンドライトを持って来ていた、その宝石を使っているともっぱらの噂だ」
らしい、と何度も口にしながら、ハンスは自分の額の辺りを指さした。
墨はティアラを見ていない。
ドレスは仕立て直すために広げたが、ティアラは箱から出したのかも分からない。
それはもう、墨の仕事ではない。
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