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「つまりは、どれも伝聞で、真実は分からないということか」
「そう。でも、ぼくたちにとっては大事なことなんだ」
「大事?」
墨が尋ねると、ぐい、とハンスは身を乗り出した。墨はのけ反りたくなるのを、ぐっと我慢する。
眼鏡の奥の瞳は、よく見れば春の森のように緑に萌えている。
「発行部数が変わる。うちの新聞社は、ちょっとばかし、世俗的なんだ」
「……呆れた」
「姫の御付きの神秘的な美少女が明かす、姫に送られたティアラの歴史! とか、姫の神秘的な美しさ、とか、そういう記事のひとつもないと、つまらないだろ?」
興味がない。
そう答える気もなく、墨は黙った。
「そういう記事が必要なくらいには、姫さまの結婚は、国民の皆さんに受け入れられていないということですか?」
霞が尋ねると、ハンスは席に戻って、頷いた。
「正直言って、天籟ってどこ? 何? どんな国? そんな感じだ。こちらには東洋人は少ない、どうしてもね、みんな戸惑うよ」
「……そうですね。でも、あなたは姫さまに随分好意的ですのね」
ちくり、と言葉に棘があるように感じた。
珍しい。ドリューも手を止める。
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