最悪のディナー

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 霞は微笑んだまま、小首をかしげる。 「姫さまを受け入れるように記事を書きたいのですね?」 「さぁ、どうだろうね。その方が面白いだろう? 折角の未来の大公妃の花嫁行列だ」 「そうですか。──ムオ、そろそろ姫さまのところに戻りましょうか」 「あ、ああ」  有無を言わせぬ強さで、霞が墨を促す。ドリューは大きな口を開けて、皿の上の料理を全部突っ込み、汚れた口元を乱暴にナプキンで拭いた。  ハンスもハウスホーファーも引き止める様子はない。  霞はナプキンを丁寧に畳む。 「受け入れられるかどうか、新聞の記事ひとつで決まるような御方ではありません」 「そうかい」 「それでは」  怒っている。  朗らかな霞にしては珍しく分かりやすい怒りだ。食堂車を出てすぐのデッキで、霞は大きく息を吐いた。  墨は振り向く。  ハンスは座ったまま、立ち上がったハウスホーファーと話している。その手には万年筆……あれは確か、ポートサイドの街で見た。スプーン・タイプ・インキ・フィード・バー……最新式の、ウォーターマン社の製品のはず。  着古したスーツに、すり減った靴底。それだというのに、真新しい万年筆を買うだろうか。
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