23人が本棚に入れています
本棚に追加
ドリューの言うことは間違いない。
姫を大事に思い、一番優先するが、それは愛情ではない。それが定めで、自分の存在意義だ。
女媧の子孫と、雷公に選ばれた奴隷。それが天籟の姫君と姫奴の本質的な立ち位置だ。
恋とか、愛とか、そういうものよりも強い結びつきがある。
ドリューと墨がぎゃあぎゃあやり合っている間、霞はうかない表情でため息を漏らした。
「姫さまがハンスさんをもし見初めていたら、どうすればいいのでしょう」
「逢引でもさせるか?」
「馬鹿かお前は、そんなことさせるわけないだろ」
「冗談に決まってんだろ。──ただなぁ、いくらなんでもあの冴えねえ記者より、もっといい男はいただろうよ。案外、姫さまは男の見る目はないのかもな」
ふふ、と霞は短く笑う。墨はイラっとしたけれど、ため息ひとつで同意した。
その通りだ。
恋に落ちるかもしれない。祠堂を出てからも、今まで姫の名前を直接聞いた人間なんていやしない。そんな無礼を……もしも、姫が心地よく感じていたのなら?
それでも、あんな冴えないような男じゃなくてもいいはずだ。
公国の大公世子と、あの記者なら、きっと大公世子の方がいい男に決まっている。
最初のコメントを投稿しよう!