船の夜

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   夜。  車中は、車輪の音とゴウゴウと風を切る音以外、何も聞こえなくなった。  姫の寝ている寝台の足元に座って寝ていた墨は、ゆっくりと目を開けた。  姫は規則正しい寝息を立てて、ゆっくりと寝ているようだ。  これは、姫奴(ジェンヌウ)として間違っているだろうか。  絶えず自分に問う。  答えはどこからも返ってこない。ただ、自分にあるのは姫奴として叩きこまれた掟だ。  影として生きる。  姫たちにかかる災いを払う矛となる。  その身一つで姫を守る。 (姫は、まだ、天籟の姫だ)  妃になる前は、墨が守る。  ──……ハンス・シュミット。   あの男は排除しなければならない。
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