通訳の親子

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「你以同樣嘅方式告訴你。我不需要女傭、照顧一切喺呢度 《あなたは同じように言えばいい、メイドはいらない。世話はこちらでする》」  思えば、輿入れが決まってから、墨が天籟の言葉を口にしたのはこれが初めてのことだ。  響きは懐かしいが、思ったよりもつかえてしまった。  朝賀が中々訳す様子がないので、墨は役人に視線を向けた。 「メイドは結構。姫様の身の回りのことはこちらでします」  突然独語で返事をした墨に、役人は目をすがめた。 「……侍女はおひとりと聞いています。何かと御不便でしょう」 「慣れております」  役人の視線が冷たい。  墨は負けじとにらみ返した。 「姫様は輿入れまでは天籟の宝。天籟の者がお世話いたします」  姫を守るのは、墨の、姫奴の使命だ。  姫奴ひとりいれば、事足りる。  そのために訓練を受けてきた。──人が多ければ、危険は増える。 「次の間に控えさせてはおきます。何かあってはことですから。ご遠慮なくお申し付け下さい。大公陛下も、大公世子殿下も、姫殿下の無事の御付きをお待ちです」  役人は丁寧だが、どこか慇懃な様子で墨たちに頭を下げた。  厭味ったらしい口調に墨はぐっと拳を握る。 (……なんて失礼な……!)  文化が違うとはいえ、姫と対面しているのに膝もつかず、視線も高い。  クリークヴァルト人はみなああいう人間なのだろうか。 「では、失礼します。お前たち、下がれ」  役人は冷たい声で命令した。  メイドたちは機械のように頭を下げて、廊下に出ていく。  祠堂の女官たちの穏やかでゆったりとした様子とは大違いだ。  最後、役人は墨を横目で見下ろした。  視線はしっかりとあったが、すぐに相手から逸らされる。  墨が何か言葉をかける前に、大きな扉は音を立ててしまった。
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