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天籟の冠
新聞記者たちは、どうやら汽車にも乗るようだ。乗り込む記者たちを車窓から眺めて、墨は息を吐いた。
墨たちは姫に宛がわれた区画のサロンに集められている。
「どうして記者まで……」
上質な木でつくられた車両は、壁紙やカーテンは白地に蔦と薔薇の模様がプリントされた揃いのデザインだ。
姫のサロンは全ての家具が曲線的でとても優美だ。
ガラス製のシャンデリアは、今は明かりをともしていないが、夜になればまた部屋の印象をがらりと変えるのだろう。
「写真機ははじめてか?」
「馬鹿か。そんなわけないだろ」
ドリューに尋ねられて、墨は襟首から、小さな守り袋を引っ張り出した。
首から下げているその守り袋をそっと開ける。
祠堂の女官たちが一針一針、旅路の安全を姫の安寧を祈って用意してくれたものだ。
中から取り出した一枚の写真を、そっと開いた。
「ん? お前と姫さまじゃねえか。見たことのねえけど、すごい屋敷だな」
「天籟国の王府にある祠堂だ。姫はそこで神職として暮らしていた」
「……つまり、城のなかに教会があって、尼さんみたいなことか?」
墨はじろりと睨みつけたが、ドリューは首を傾げたままだ。
「つーか、お前、めっちゃチビじゃねえか! 今よりもっとチビ!」
「耳元でそんなデカい声を出すな!」
院子で撮った、例の写真だ。
桃の木の下のふたりは、いまよりも少し幼い。
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