1.よくあるはなし

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「何考えてるの」 わなわなと怒り震えながら目の前の男に問う。引っ張りこんだ玄関の中、至近距離で見る顔は癪に障る位綺麗だった。 「何って。ただの親切心」 悪びれもなくそう言ってのける隣人の結城。細い指先で遊ぶ下着を取り上げると、おかしそうに笑う。 「なんか、怒ってる?」 形のいい唇が、上品に弧を描く。 「誰のせいだと」 「俺のせいなの?」 端正な顔がぐっと近づく。真っ白な手が伸びてきて、首元をかすめた。その些細な接触に、体が大げさにびくつく。 「ーー!」 「あ、ごめん。髪にほこりついてた」 「ーー」 言葉にならない羞恥と腹立たしさが同時にこみあげる。そこにときめきに似たなにかも混じっていることにまた腹が立つ。 「ーーで」 「なに」 「彼氏と別れるの」 は、はあ? 「どうすんの」 どうすんのって、なんだ。 「いや、間抜けな顔されても」 は、はああ? 「むかつくんだけど!?」 「あはは」 笑ってる場合か。
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