~4月27日水曜日(三人目)

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  *  *  *  四月初旬。  自分が行く異動先には、同期が居た。  その同期が希望部署に行くらしく、その穴埋めに俺があてがわれた。  まだ入社して一年なのに、思い通りになる奴もいるんだな、と羨ましく思う。  まあ、自分には確固たる希望が無かったからかと後悔した。  ちゃんとアピールはしておかないとな、と悟った。  そんな希望部署をアピらなかったのは、今の所でもいいかと思っていたからだ。  やっと仕事を覚えて一年が巡れたのに……動かされた。駒みたいに。 「本当にお世話になりました」  引継ぎに行ったら同期は、先輩に向かって頭を下げ、おいおい泣いて別れを告げていた。 (泣く位なら、移りたいっていうなよ)  内心舌打ちしながら、その光景を離れて見ていた。  空気を読んだのか同期は走って俺の元に来て、頭を下げて来たから、少し気は晴れた。 「あの方が今度君の教育係の先輩。俺はめちゃくちゃお世話になって……本当に出来た良い先輩だから」  涙声で、耳打ちして紹介された。  さっき同期が泣きながら頭ペコペコ下げてた相手を差して。  俺は同期の紹介を聞き流し、自分の感覚で見極めるために、引き気味で目を凝らして見た。 (……見覚えが、無いな)  同じ社内に一年居たけどフロアが違うせいか、印象にない人だった。  他部署でも、目立つ先輩は印象に残ってて、可愛がって貰えるように押えとかなきゃなと、脳内チェックリストに入っている。  だけど、同期から紹介された人は、俺的に除外者だった様だ。  見た目も地味で、大人しそうな印象だ。  も一つピンと来ないなと思ってる間に、同期に連れて行かれた。 「よろしくお願いします」  自分が受けた先輩への印象はおくびにも出さず、面接百点の満面の笑顔で挨拶した。 「こ、こちらこそ、これからよろしくお願いします」  後輩に向かって、丁寧な言葉で返事してくれた。ぎこちない笑顔で。  気弱そうな、人の好さそうな感じが全開。  押さえるべきチェックリストから外れていたのも、間違いじゃないと感じた。  俺が見極めた新しい先輩の品定めは、出た。 (世渡り、下手そうだな)  怖かったりややこしそうな先輩だったら嫌だなとビビッてたけど、目の前の先輩をみたら少し笑える余裕が出た。 (多分これから一番直で世話になるのはこの人なんだろうけど……俺がここで抑えるべき人は、別だな)  笑顔で会釈しながら、そんなことを冷静に考えていた。
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