害獣スタンプ

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害獣スタンプ

「あ、田中ちゃんお疲れ。ちょっと見てよこれ」 工場での仕事が終わり、タイムカードを切って着替えて帰ろうと倉庫を通り過ぎようとすると、荷受け担当の松本さんが手招きして私を呼び止めた。 年配に差しかかろうとしている彼の腕は、業務上力仕事が多く、長年勤めているおかげか、ジムで鍛えてるんですよと得意げに話していた事務職の新人よりもたくましく見えた。 「お疲れ様です。どうしたんですか」 「ほらこれ。やられちゃったよ」 1枚の書類を見せながら参ったな、と松本さんは苦笑した。あとで事務所に提出するものだろうか。 「なにがやられたん、あ、可愛い」思わず声に出た。 書類には何かの動物の足跡が2つ押されていた。1つはきれいに踏まれているがもう1つは端っこの方で半分だけだった。 「なんですかこれ?猫に似てるけどそれにしては大きいような」 実家で飼っているスナちゃんを基準に考えていると松本さんは答えた。 「ハクビシンだよ。多分そこの隙間から忍び込んだんだろうなあ」 そう言って倉庫の壁に目をやると下の方に猫が通れるくらいの穴が空いていた。 「へえ。ハクビシン。東京に出るんですね」 「出る出る。俺んち家庭菜園やってるんだけどこの前めちゃめちゃ荒らされたもん。足跡とかまんまこれ」 その時を思い出しているのか松本さんの背中に哀愁が漂っているように見えた。
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