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「それは災難でしたね。というか気になったんですけど」
「うん?」
「その壁、いつから穴空いてたんですか?小さくても泥棒とか入る可能性とかあるんじゃ……」
「あー、結構前からだね。田中ちゃんが入社する前はまだ小さめだったよ。今こんなだけど。一応上には言ってあるけど優先順位低く見られてるのか忘れてるのか一向に直してくれる気配ないんだよね。昔はこんな会社じゃなかったと思うんだけどねえ。俺は新卒の頃からずっとここだから他の会社はどうなのか知らないけど、社長の代替わりをしてから酷くなったもんだよ。また被害出ても困るからもう一度言わなきゃ」
「そうなんですか。あれ?社長が変わったのっていつからなんですか?」
少なくとも自分が入社した時は社長が変わったという話は聞いたことがないからそれより前だろう。
「田中ちゃんが来てからだね」
私は複雑な気持ちになった。
「あ、そうだ書類作り直さなきゃ。めんどくさいなあ」
松本さんは再びハクビシンの足跡が押された書類に目をやった。
「そのまま出しちゃえばいいじゃないですか松本さんのサイン書くとこに足跡押してありますし」
私の冗談に松本さんはハハハと笑った。
「俺もそうしたいけどさすがにまずいよ。ハクビシンが書類作ったことになっちゃう」
「それもそうですね。じゃあ、私そろそろ帰りますね。お疲れ様です」
「うん、お疲れ。引き止めて悪かったね」
「いえいえ」
ぺこりと頭を下げながら進む私に松本さんはまた来週、と手を振った。
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