綾瀬と佐々木の、ちょっとした内緒事。

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綾瀬と佐々木の、ちょっとした内緒事。

「寒いですね!」  着膨れして、まるでふくら雀のようになっている佐々木(ささき)亜夢(あむ)はそう言うと、隣に立つ壮年の男性を見遣る。 「所長は、ずいぶん薄着なんですね? コートだけなんて、年寄りのクセに平気なんですか?」 「お前ね、一言多いんだよ」  所長こと綾瀬(あやせ)塔矢(とうや)はそう言い返すと、次にニヤリと笑った。 「ヒートテック二枚に、裏起毛の肌着上下だ。防寒対策はバッチリだ」 「うわ~そう来たか」  佐々木はそう言うと、背中にしょっているデイパックをちょっと意識しながら、チッと舌打ちをした。  それに気付き、綾瀬は「何かあるのか」と話を向けるが……。 「別に! 何でもないですよ」  そう素っ気なく言い捨てると、佐々木は参道を歩くスピードを上げる。 「それより、さっさと参拝して帰りましょうよ。お袋から年越しそばの差し入れがあるんですから」 「事務所で食うのか~? ご両親は寂しいんじゃないのか?」 「兄貴夫婦が子連れで来てますからね。それに、仕事関係の人や親戚も来るし。ウチは年末年始は外人だらけで賑やか過ぎるくらいです」    佐々木の両親は共にグローバルで交友関係が広いし、そもそも父親は日系ブラジル人だ。 「でもオレは、パンより米派なんですよね~。で、オレがいると余計な手間が増えるから、むしろ外出してくれた方が助かると。お袋、雑煮とかおせちとか嫌いなんですよ」  明るい茶色の髪に、明るい琥珀色の瞳をしているが、佐々木はしっかり日本人だ。  トールタデフランゴやレンズ豆では、正月気分になれない。 「……トールタデフランゴって、豚肉料理だっけか?」 「そうです。向こうの正月ではお馴染みの家庭料理ですね。美味い事はうまいですが……」  でも、正月はそうじゃない感がする佐々木である。 「オレ、やっぱり日本人ですから! だから、ガキの頃から毎年オレ用に、年越しそばだけは用意してもらうんですよね」  今年はそれを、二人前にしてもらった。
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