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「じゃあ、参拝したら事務所に戻って……ありがたくお袋さんの差し入れを頂くかな」
「茹でるだけですから、簡単ですしね」
二人が向かう先は、人もポツポツしか見当たらないこじんまりとした社だ。
参拝も、そう時間は掛からない。
――――二礼二拍一礼。
「……何を願ったんですか?」
さり気なく期待を込めて訊ねた佐々木に、綾瀬は飄々とした様子で小さく笑う。
「探偵事務所が、今年こそは赤字になりませんようにってな」
「……ま、そんなトコロだと思いましたよ」
ちょっと肩透かしを食らったが、それもどうせいつもの事だ。
このオッサンが手強いのは知っている。
「そう言うお前こそ、何を願ったんだよ?」
「所長が夜逃げしませんようにってね」
「おいおい、信用無いねぇ~」
「ふんっ」
(オレの本当の願い事は、絶対に教えられないな)
吐く息が白い。
東京とはいえ、さすがに寒さがしんしんと染みる。
ブルっと震えた佐々木であるが、不意に、頭に何かが触れた。
「っ!」
「オレからのお年玉だ」
「――――現物支給ですか」
頭を覆った帽子に手を触れながら、佐々木はちょっと頬を膨らせて言う。
ニヤリと笑って先を歩く綾瀬に、今度は佐々木の方が行動を起こした。
「それじゃあ、オレからもお年玉です」
デイパックからマフラーを取り出し、後ろを振り向いた綾瀬に向かって投げる。
「今年もよろしくお願いします!」
「……ああ、こちらこそ」
綾瀬はマフラーを受け取ると、微笑みながらそう請け負ったのだった。
Happy New Year!
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