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激しく降りすさぶ雪は、容赦なく硝子の窓を叩きつけていた。
二階の客室の窓から外を眺め、銀ノ介は雪白に彩られた地面に繋がる森の先を見た。
鬱蒼と生い茂った山に続く木立からは、生き物気配は何も感じられなかった。このような吹雪の中では、さすがに身を潜めるのだろう。
掌に乗せれば溶けてしまうような儚い存在であっても、多量であればそれも凶器と化すのだから。
「お食事の用意が出来ましたよ」
襖の向こう側から女将の声がかかり、銀ノ介は窓枠から腰を上げた。
木造の古びた旅館の廊下は、歩く度に軋んだ音を立てる。一階の食堂には他の客の姿はなく、宿泊客は銀ノ介ただ一人のようであった。
「それにしても酷い雪だこと。お帰りは先延ばしにされた方が良いのでは?」
配膳をしてきた女将に言われ、銀ノ介は頷いた。
「別に急ぎの用もないので、そうしようと思います。よろしいですか?」
「こちらは構いませんよ。明日には止むといいんですけどねぇ」
そう言って、女将はふくよかな顔を窓の外へと向ける。灰を散らしたような暗い雪が、風に巻かれていた。
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