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だが、勢い勇んで接触した所で、警戒されて早々に立て去られてしまってもかなわない。
それに勘違いだったら、とんだ勇み足である。
銀ノ介は大きく息を吐き、持ってきていた書物を鞄から取り出す。
一時間ほど読書をし、それから半纏を着込むと、部屋の外に出た。
冷えた階段を降り、一階の受付にいた女将に声をかける。
「私の他に客人は来てないのですか?」
女将は帳簿から顔を上げ、口を開く。
「それでしたら先程、急遽お泊まりになることになったお客さんが来ましたよ」
「その客人はどちらに?」
「雪をかぶってらしたので、湯を勧めましてねぇ。今は湯殿にいらっしゃるんじゃないでしょうか」
何かご用件でもと聞かれ、銀ノ介は言葉を詰まらせる。どう答えようかと逡巡していると、女将があっと声を上げた。
女将の視線につられるようにして、銀ノ介は背後を振り返る。
浴衣姿の若い男が、タオルを肩から提げてこちらに向かっていた。
顔色が悪く根暗そうであったが、なかなかの美青年であった。
「学生さんかな?」
銀ノ介が思い切って声をかけると、青年が足を止めた。
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