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「……ええ、そうですけど」
ぼそぼそと答え、青年は視線を落とす。
「こんな雪だと外にも出れなくてね。良かったら、私の部屋で飲まないかい?」
「僕は……下戸でして」
「じゃあ、将棋ならどうだい? もしくは、最近仕入れたばかりの書物があってね。学生ならば、お目にかけたい代物だと思うのだが」
「はぁ……」
あまり乗り気ではなさそうではあったが、銀ノ介は「椿の部屋で待っている」と言い残して、その場を後にした。
部屋に戻ると、さっきよりも雪は弱まりつつあった。窓から見下ろすようにして地面を見ると、足跡はすでに雪に覆い隠されていた。
しばらくすると、「お邪魔します」と言う声と共に襖が開く。
「良く来たね。まぁ、座りたまえ」
そう言って、銀ノ介は座布団を勧めた。
座布団の前に正座する青年は、居心地悪そうに視線をふらつかせている。
温度を持たないような白い頬に、切れ長の眼。瞳と同じ黒髪が、やや湿り気を帯びていた。
彼が狐であるのならば、人間に化ける才は充分に兼ね備えているように思えた。
「君は何処の学生さんかい?」
「東京の方です」
「なるほど。だけど、どうしてこんな雪深い時期にこんなところへ?」
青年は一瞬、視線を彷徨わせた。
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