87人が本棚に入れています
本棚に追加
「えっ、お正月も帰ってこないの!?」
タブレットの艶やかな画面の上で、形の良い眉が八の字を描いた。
「あー……やっぱ、こっちは状況がこんなだし、俺は仕事も仕事だろ。万が一があるかもって考えると、な」
「まあ……うん、そうだね。こっちはお年寄りばっかだし、万が一……ね」
わかってる。
我慢しているのは、僕だけじゃない。
頭ではそう理解していても、やるせない思いがこみ上げてくる。
『夏には落ち着くと思うから』
『車でなら、帰れると思うから』
『年越しそばは、絶対一緒に食べよう』
そう、言ったじゃないか。
心配そうに覗き込んでくる目の周りが、色濃く染まっている。
感染拡大地域の病院で働く彼は、僕には想像もできないほどの緊張と不安の中で、日々奮闘しているに違いない。
そんな彼に負担をかけたくないと思うのに、僕は自分勝手な涙を止められない。
会えない時間が愛を育てる?
そんなの、嘘だ。
だって……足りない。
僕は今、こんなにも彼に会いたい。
最初のコメントを投稿しよう!