僕からあなたへ

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「……なあ」 「んっ……?」 「年賀状ってさ、どこで売ってんの?」  唐突に変わった話題に、思わず目を瞬く。  久しぶりに見上げた彼は、穏やかな苦笑を浮かべていた。  目元を拭い、投げかけられた質問の答えを探す。 「郵便局とか……最近は、コンビニとかでも普通に売ってるけど。なんで?」 「あー……今年……いや、来年扱いか? ……は、まあ、その、出そうと思って」  真っ直ぐにこっちを見ていた視線が左にずれ、下唇が僅かに飛び出た。  照れる時の、彼の癖だ。  手を繋いで一緒に学校に通っていたあの頃から、ずっと変わらない。  荒んでいた気持ちが、ゆっくりと落ち着きを取り戻していくのが分かった。 「どういう風の吹き回し? 今までずっとだったのに」  堪え切れずに笑いが混じると、彼の唇がますます尖った。 「……いらねえなら」 「だめ! いる! ぜったい!」  思わず前のめりになると、画面の奥からブハッと豪快な音が聞こえた。 「なんだそれ? 電車のポスターかよ」  いつもは切れ長な目が綺麗な弧を描き、整った輪郭が歪むと、やがて満面の笑顔に変わる。  途端に、あまずっぱい記憶が蘇ってきた。  僕はいつだって、彼のこの笑顔にキュンキュンさせられてきたのだ。  もしかしたら、この世に生まれ落ちた時からずっと。 「あっ……あ!」 「ん?」 「25日までに出さないと元旦に間に合わないからね!」 「そうなのか、知らなかった……。んじゃ……あ、後で住所送っといて」 「は? なに言ってんの、実家の隣でしょ」 「105か、107だったか、忘れた」 「もう、7の方だよ」 「了解。んじゃな、よいお年を」 「え、あ、ちょっと!?」  僕の返事も待たずに、彼は通話を切った。  可愛らしいトイプードルのアイコンに戻ってしまった画面を見つめながら、高鳴る鼓動を抑えられない。  彼から年賀状が届く――本当に?  今年の大晦日、僕は眠れないかもしれない。
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