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狭い牢のなかでも、女性たちはそれぞれ似た者同士で集まる習性があるようだった。ぼんやりとした明かりが、比較的育ちの良さそうなグループと、スラム街育ちのような女性のグループとを映しだしている。その、真ん中あたりから声がした。
「ねえ、それ、食べないならこっちにくれない?」
落ちついた、冷静といってもいい声である。暗くて見えづらいが、金髪、目は薄い灰色だろうか。かなり若い女性だが、成人前ということはなさそうだ。「こっちはもうちょっと食べそうな子がいるんだけど」
「どうぞ」銀髪の美女が、食事を手渡した。
「どうも」
金髪の若い女は、食べたりなさそうな痩せた女たちにそれを配り、自分でもチーズのひとかけをかじっている。たしか、つい昨日連れてこられたばかりの女性である。これまで目立つ様子はなかったが、ふてぶてしいといっていいほど落ちついて見えた。
「私も、あんなふうに図太くなれたらいいのに」食事を譲った女性が、涙まじりに呟いた。もとは茶髪をきれいに結いあげた町娘風で、なるほど線の細い顔だちであった。
「そうね……」銀髪の女はうわの空で同調した。(おかしな女だわ)、と考えていた。
ここに来るまでの来歴を考えれば、もっと悲嘆にくれてよさそうなものだ。女たちの多くは、あまり出自を語らないように生きてきた者が多かった――子どもの命がなにより尊ばれるオンブリアでは、たとえ人間との混血であっても、〈竜の心臓〉さえあれば、同胞として迎えいれられる。それでも、外見でそれとわからないような混血児たちは、口を閉じて無用な疑いを避けていた。おそらく、人間の国でも同じだろう。彼女自身もそうだった。
「よーし、いよいよ今夜だな」
男の一人が手を打った。「これでようやく、女どもの世話からおさらばできるぜ」
「こんなに苦労して、あちこちからかきあつめて、取り分は二割なんだからな。世知辛い世の中だぜ、まったく」
「客の入りはどうだ?」
「まぁまぁだな。あんまり多くてもガサ入れが心配だ、こんなもんだろ」
「もの好きなお貴族さまたちが多いってこったな」
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