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それで、さっきまでの勢いと怒りが溶けていくようだった。
デイミオンが不機嫌だと、リアナはつい攻撃的になってしまう。でも、こうして心臓が重なり合うほど近くにいれば、何も言わずともそれだけで夫の気持ちが伝わってくる。愛するつがいが自分の羽の下に戻ってきたという安堵だけが、そこにはある。
無事に城に戻ってはきたけれど、あまりに目まぐるしく事が動いていて、再会をよろこびあう時間すらなかった。事件の後処理も普段の政務も、なにもかもデイミオンがやってくれたのだ。おそらくは夜を徹して。
夫の疲労と心痛にも気がつかないほど、リアナ自身、気を張っていた。フィルバートを助けなければという危機感もあったし、五公たちとの対峙は緊迫していた。息子が犯罪に加担していたグウィナの悲痛にすら、すぐには思いおよばないくらいだったのだ。
「ごめんね」
夫の胸のなかから、リアナは素直に謝った。フィルを助けるためとはいえ、二番目の夫の出現などという茶番を演じさせたこと。その前に、襲撃でフィルをかばってしまったこと。いや、そもそもが闇オークションなどに首を突っこんでしまった自分の無鉄砲ぶり……。契約のことだって、つきつめれば彼女のためのものなのだ。
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