11-5. 婚前契約

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 それで、さっきまでの勢いと怒りが溶けていくようだった。  デイミオンが不機嫌だと、リアナはつい攻撃的になってしまう。でも、こうして心臓が重なり合うほど近くにいれば、何も言わずともそれだけで夫の気持ちが伝わってくる。愛するが自分の羽の下に戻ってきたという安堵(あんど)だけが、そこにはある。  無事に城に戻ってはきたけれど、あまりに目まぐるしく事が動いていて、再会をよろこびあう時間すらなかった。事件の後処理も普段の政務も、なにもかもデイミオンがやってくれたのだ。おそらくは夜を徹して。  夫の疲労と心痛にも気がつかないほど、リアナ自身、気を張っていた。フィルバートを助けなければという危機感もあったし、五公たちとの対峙(たいじ)は緊迫していた。息子が犯罪に加担していたグウィナの悲痛にすら、すぐには思いおよばないくらいだったのだ。 「ごめんね」  夫の胸のなかから、リアナは素直に謝った。フィルを助けるためとはいえ、二番目の夫の出現などという茶番を演じさせたこと。その前に、襲撃でフィルをかばってしまったこと。いや、そもそもが闇オークションなどに首を突っこんでしまった自分の無鉄砲ぶり……。契約のことだって、つきつめれば彼女のためのものなのだ。
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