11-5. 婚前契約

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 言いながら、当時の苦しい思いがよみがえってきて、リアナは思わず顔をそむけた。デイミオンの唇が、まつげからこぼれ落ちる涙をすくい取った。  こんなことで泣いてしまうなんて、少女のようで、自分が腹立たしい。だが、悔しさで上書きしようとしても、涙はなかなか収まらなかった。 「……すまない。嫌なことを思いださせた」  かさついて温かい唇が、彼女の涙で濡れた。頬をすり寄せ、甘やかすように髪をなでられる。「俺が悪かったから、泣くな」  昔はこんなふうに簡単に謝ったりしなかったし、涙を見せるとあきれるくらいだったのに、だんだんと妻の気持ちのおさめかたに習熟するようになった。数えきれないくらいケンカして、そのたびにもっと近づいていく。 「おまえと結婚する前は、ずっと婚前契約に沿って粛々とシーズンの務めをこなしてきた。だから……婚前契約(それ)を作れば、おまえたちのことを制御できると思ったんだ」  それはいかにもデイミオンらしい考えで、そのことは理解できた。 「でも、気持ちを制御するのは、難しい」リアナは涙に濡れた頬をぬぐって、呟いた。 「紙の上だけの結婚じゃないわ。少なくとも、フィルにとっては」 「クソッ」デイミオンは悪態をついた。 「あいつを愛しているのか? 俺と同じように?」
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