19人が本棚に入れています
本棚に追加
言いながら、当時の苦しい思いがよみがえってきて、リアナは思わず顔をそむけた。デイミオンの唇が、まつげからこぼれ落ちる涙をすくい取った。
こんなことで泣いてしまうなんて、少女のようで、自分が腹立たしい。だが、悔しさで上書きしようとしても、涙はなかなか収まらなかった。
「……すまない。嫌なことを思いださせた」
かさついて温かい唇が、彼女の涙で濡れた。頬をすり寄せ、甘やかすように髪をなでられる。「俺が悪かったから、泣くな」
昔はこんなふうに簡単に謝ったりしなかったし、涙を見せるとあきれるくらいだったのに、だんだんと妻の気持ちのおさめかたに習熟するようになった。数えきれないくらいケンカして、そのたびにもっと近づいていく。
「おまえと結婚する前は、ずっと婚前契約に沿って粛々とシーズンの務めをこなしてきた。だから……婚前契約を作れば、おまえたちのことを制御できると思ったんだ」
それはいかにもデイミオンらしい考えで、そのことは理解できた。
「でも、気持ちを制御するのは、難しい」リアナは涙に濡れた頬をぬぐって、呟いた。
「紙の上だけの結婚じゃないわ。少なくとも、フィルにとっては」
「クソッ」デイミオンは悪態をついた。
「あいつを愛しているのか? 俺と同じように?」
最初のコメントを投稿しよう!