11-6. 〈血の呼ばい〉の行方

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 〈継承の間〉への門はナイメリオンに開かれ、出てきたときには、少年は泣いていた。 「あのきれいなものたちは、もういませんでした」  王太子から降りたばかりの少年の、最初の言葉だった。 「きれいなもの?」少年の腕に手を置いて、リアナが尋ねた。「あの……蝶みたいな生き物たちね? 〈継承の間〉にあらわれて、入ってきた者に口吻(こうふん)を刺す……」  ナイムは憔悴(しょうすい)したように、こっくりとうなずいた。「竜祖の使い。僕が犯罪者だから、姿を見せなかった」  『犯罪者』という固い言葉の響きが、ナイムをかえって幼く見せていた。まるで、「僕が悪い子だから」と言っているのも同然だった。なんともいえない気持ちになり、リアナは小さく息をついた。ヴィクトリオンが弟の肩を抱き、母グウィナのもとへ連れて行く。グウィナは本来の明朗さをいくらか取り戻していて、息子たちに目だけで微笑みかけると、あとはライダーたちに細かな指示を出していた。  ……ともあれ、あの生き物は、竜祖の使いというよりも、もっと機械的ななにかのようにもリアナには思える。少なくとも、ナイムの罪を裁くほどの高位の存在があるのなら、そもそも彼が〈血の呼ばい〉によって選ばれたことと矛盾している。〈呼ばい〉と〈継承の間〉、いや竜そのものを含めた、古代からの仕組みのなかのひとつのような……。
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