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同日、王や五公が不在となった掬星城。その一角にある、貴族用の幽閉塔に来訪者があった。
独房は扉と窓に鉄格子がはめられてはいるものの、それをのぞけば一人暮らしの安宿よりもよほど快適だ、と囚人は思っていた。布張りの長椅子に怠惰に寝そべっていたその囚人、ザシャは、錠のまわる音で身体を起こした。
「ザシャ殿」
声をかけてきたのは、見知った顔。竜騎手団の団長、ハダルク卿だった。隣に二人、部下らしいライダーをともなっている。
「ハダルク卿。こんな場所へようこそ。おかまいもできませんが」
ザシャはへらへらと笑いながら言った。「閣下には警備隊への推薦状ももらっちゃったのに、すみません。俺がこんなことになって、あなたの出世に響くかな?」
こうして最悪の形でハダルクの恩を裏切ることになったわけだが、ザシャにはそれを恥じる気持ちはなかったし、まして自分の犯した罪に対する悔悟の情など湧かなかった。
ハダルクは用件も告げずに黙っていたが、しばらくして言った。
「あなたの父上、ロッテヴァーン卿を存じあげていました。竜騎手団での私の後輩にあたります」
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