11-6. 〈血の呼ばい〉の行方

8/13
前へ
/496ページ
次へ
 同日、王や五公が不在となった掬星(きくせい)城。その一角にある、貴族用の幽閉塔に来訪者があった。  独房は扉と窓に鉄格子がはめられてはいるものの、それをのぞけば一人暮らしの安宿よりもよほど快適だ、と囚人は思っていた。布張りの長椅子に怠惰(たいだ)に寝そべっていたその囚人、ザシャは、錠のまわる音で身体を起こした。 「ザシャ殿」  声をかけてきたのは、見知った顔。竜騎手団の団長、ハダルク卿だった。隣に二人、部下らしいライダーをともなっている。 「ハダルク卿。こんな場所へようこそ。おかまいもできませんが」  ザシャはへらへらと笑いながら言った。「閣下には警備隊への推薦状ももらっちゃったのに、すみません。俺がこんなことになって、あなたの出世に響くかな?」  こうして最悪の形でハダルクの恩を裏切ることになったわけだが、ザシャにはそれを恥じる気持ちはなかったし、まして自分の犯した罪に対する悔悟の情など湧かなかった。  ハダルクは用件も告げずに黙っていたが、しばらくして言った。  「あなたの父上、ロッテヴァーン卿を存じあげていました。竜騎手団での私の後輩にあたります」
/496ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加