11-6. 〈血の呼ばい〉の行方

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「今度は誰だ? 人生の最後に、俺も重要人物になったものだな」  ザシャはいぶかしむ。「あの竜殺し(スレイヤー)の関係者か?」  英雄にして竜殺しと呼ばれるあの男が、みずからの剣でザシャを殺したがっていると、牢番が面白そうに話しているのを聞いたのだ。もしザシャを震えあがらせたい目的があったのだとしたら、それは完全に成功していた。相手の意識を残したまま、末端から切り落としていくというフィルバートの尋問方法は兵士たちの間に広く流布している。  だが、違うようだった。 「私は、フィルバート卿を敵にまわした男のなかでは、もっとも長生きしているようだな」老人はふくみ笑いで暗にそれを否定した。 「なに。おなじ領主貴族の一員としての慈悲だ。ライダーの息子として、おまえを誇り高く死なせてやろうと思ってやってきたのだよ。痛みのある死は嫌だろう?」  たしかに身分の高そうな、そしてずいぶんと年を取った男だった。漂白された羊皮紙のような、白くて皺の多い老人で、小柄で痩せていた。隠れ里には高齢の者はいなかったから、ザシャは老人を見るといつもまじまじと眺めてしまう。……隣に従者らしき男が立っていて、折り目正しく差しだした盆に銀の杯が載っていた。
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