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「毒杯か?」ザシャは笑った。もはや、貴族相手に口調をとりつくろうことも面倒になっていた。「さすが、お貴族さまにはいいものがあるじゃないか」
「これが欲しいかね?」老人はゆったりと杯をかかげた。
ザシャは即答した。「みじめに処刑を待つより、一瞬で楽になるほうがいい。そいつを寄こせよ」
老人がうなずきかけると、従者が杯を取ってザシャに渡した。彼らの気が変わらないうちにと、青年は一気に杯をあおった。
「これが毒か? すぐ死ねるのか?」
ザシャはいぶかしむ。かすかに薬臭いが、それ以外には目立った味もない。しばらくは、手持ちぶさたな間があって、そして……。
猛禽のような無感情な対の目が、自分を観察しているのを感じた。
「なんだか、身体がどんどん重くなっていく……これが毒なのか?」再び、そう呟いた。
「毒だとも」エンガスは穏やかな乾いた声で言った。「おまえが思っているような毒かはわからないが、私が毒だと思っているものだ。意志による抵抗は奪い、身体への命令は残す。従順に研究に協力できるようになる」
話が違うじゃないか、という声はあがらなかった。囚人の目はしだいにうつろになり、手足が弛緩してゆらゆらと前後に揺れはじめている。
エンガスは、従者がザシャを抱えて運ぶのを眺めた。
「リアナ陛下ほど興味深くはないが、被験者はいつでも歓迎されている」
そして、永遠に貼りついた仮面のような笑みを浮かべた。
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