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自分の国の、王のお膝元ともいえるタマリスで、このような犯罪行為が野放しになっているとは。
「人間との混血の女性は、純血の竜族より多産と考えられている」
後ろで呟く声は、リアナと名乗る女性のものだった。
「わたしたちは子どもがほしい……だからといって、混血の女性を売買していい理由にはならない。……わたしの目で確かに見たわよ、クロヴィン卿、スヴァルスク卿、カーニシュ卿」
オークションに参加している貴族たちを名指しするその姿で、モーガンは彼女の正体に確信を持った。
「潜入捜査員は、私以外にもう一人いるはず。……それが、あなたなのね?」
モーガンの小声の問いかけに、リアナはなぜか間を置いてからうなずいた。「そのようなものね」
「準備は整っている?」
先に潜入したモーガンは、彼女よりも情報が遅いはずだった。それで尋ねると、リアナはうなずいた。「万全よ。王都警備隊が、このタウンハウスを取り囲んでいる。合図があれば、突入できるわ」
「もう!?」
春はどの部署も忙しく、王都警備隊も例に漏れない。モーガンとて、潜入捜査の前には入念に各部署に根回しをしたのだ。それでも、一度に動かせる人員には限りがあるはずなのに――。
彼女は何者なのだろう、とまたモーガンはいぶかしんだ。仮面をつけた貴族たちを名指しできるくらいだから、かなりの手練れだろう。自分には知らされていない、貴族たち向けの諜報員なのかも。それにしては容貌が――その――普通だけれど。
「ともあれ、安心したわ」
ここで売られ、買われた女性たちは、間違いなく自由を得ることができる。そう思えば、自分の労苦も無駄ではなかった。モーガンは胸をなでおろした。
「まだ早いわよ」リアナが釘を刺した。
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