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「よろしゅうございます。この花の値は1200、1200と。いかがでしょうか? これ以上の値をつける方は?」
「1350」
会場がざわめいたのは、思わぬ高額を出した貴族がもう一人現れたからだった。こちらは銀狐のように真っ白な装いで、亜麻色の長い髪。軽やかな若い男性の声だった。
「これは、J卿。ごひいき賜り恐縮でございます」
白衣のJ卿と黒髪のD卿によるつり上げはその後も続き、ついにD卿によって「5500」の数字が告げられ、競りが終わりを告げた。
「5500、5500と……。それ以上はございませんか? では、5500にて、D卿へ……」
「つまらん」
金で縁取られた白い仮面の男が、退屈そうにオークショナーを遮った。「私の妻の値が、たった金貨5500とはな」
他人に命令することに慣れた、低くよく通る声である。
なにか聞き捨てならない単語が混じったような。オークショナーは、世話役のチンピラを目で脅した。男は、『なにも知りません』というように首を振った。
「なにごとも、最初に支払った金額以上の価値を見出すのが、竜族の男の美学では? 女性の価値は、金貨などには替えがたいものです」
彼と競りを争ったJ卿なる若者が、面白そうに口を挟んだ。「それにしても、彼女を金で買えるのなら5500でもまったく高くはない。賢い買い物をなさいましたね、閣下?」
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