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D卿と呼ばれた貴族は、それには答えず、周囲の制止も聞かずにずんずんと舞台に上がっていった。そのあとを銀髪の男が影のようにつき従っていく。その手は、いつでも剣が抜ける位置にあった。
「閣下、どうぞお席へ……」
と、言いかけた用心棒役の足元がぶわりと熱にゆがむ。
「あちっ!」
「退け。おまえを焼いた匂いが臭くてかなわん」
その無慈悲なセリフで、貴族が黒竜の乗り手であることが知れた。ここはタマリス、ライダー自体は珍しいものではない。
「馬鹿にしやがって……こっちもライダーを呼べ!」
用心棒が自分の足元を気にしながら小声で指示するが、返ってきたのは「こちらのライダーは、急に炎が使えなくなったと。黒竜の支配権が奪われて――」
「なんなんだ? 高い金を出して雇ったライダーだぞ。支配権なんて寝言を聞いている暇は……」
オンブリアの貴族階級、特に五公十家と呼ばれる貴族たちは、血筋のほとんどが乗り手と呼ばれる力の持ち主だ。だからこそ、オークション会場にも護衛役として同じライダーの能力者を雇っているというのに、いったい、どうしたことなのだろう?
装飾的な金めっきの鳥かごなど、黒竜のライダーの前では枯れ枝も同然だった。ぐにゃりとゆがんだ檻を、手袋をはめた手で開き、長身の男は中からリアナを救い出した。
「……デイミオン」
リアナは男の腕の中で、満足げに目を細めた。「夫に競り落とされるなんて、刺激的ね」
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