序章 闇オークション

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序章 闇オークション

 暗闇のなかに、女たちのすすり泣く声が聞こえる。  一人、二人ではない。泣き声だけでも数名分。肩を震わせている人影や、ぼんやりとうずくまってじっとしている人影も数にいれれば、全部で12、3名ほどが押しこめられている。すべてが、若い女性ばかりであった。  じっとりと湿った、石造りの粗末な部屋である。半地下で、もとは食料置き場(パントリー)としてでも使われていたのだろうと思われた。  竜の国、オンブリアの首都タマリスには、実のところたくさんの空き家がある。  特に金のかかる貴族の屋敷は、竜族たちの少子高齢化が進むなか、相続する者がいない、田舎の領地で精いっぱいといった事情から、管理する者もなく荒れ果てている屋敷がいくつかある。そんな屋敷のなかの一つに、非合法に女性たちが集められているのだった。 「食事だぞ」  世話役、あるいは見張り役の男たちが、交代で食事を運んでくる。食事は遅れずに出ていた。ふすまの混じった固いパンとチーズ数切れ、それに獣臭い茹で肉がつくこともある。ここでの食事も両手に余るほどの回数になり、女たちは従順にそれらを手渡して配っていった。 「こんなひどいもの、食べられない」少女の一人が泣き言を吐いた。 「うちの田舎でだって、こんな固くて臭い肉、食べたことないもの」 「そうよ」「私もそうだわ」と同調する女性たちがいる。  しかし壁際のやせた女たちは、文句も言わずにがつがつと、そのみじめな食事をかきこんでいた。もとからスラム街で暮らしていたような所作をしている。この程度の食事でも、あるだけましというのだろう。  とはいえ、服装で身分を区別することはできなかった。高価な衣類はみな取りあげられ、みな同じような、露出の多いコスチュームを着せられていたからだ。ラメ入りの薄いボディスに、膝までしかないスカート。肩も腕も露出して、どんな竜族女性も眉をひそめるようなけばけばしい格好だった。 「泣いちゃだめよ」  なかでも、少女たちのまとめ役のようになっている年長の女性が、ほかの女性たちを励ました。まっすぐな銀髪に緑の目、典型的な竜族の美女といった容貌で、煽情的な衣装を着せられても威厳を保っていた。 「心を強く持って。きっと、竜祖さまのお導きがあるはずだから」 「でも、こんなところに閉じこめられて……。とても喉を通らないわ」
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