35人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
【 最終話: お年玉¥ラプソディ♪ 】
俺は、この1年間ずっと怒ることを我慢していたが、遂に新聞を読むふりをしている父に怒った!
「おい、親父!! これはどういうことだよ!!」
「……」
父は何も答えない。
俺は益々苛立つ。
「おい、親父!! 無職のくせに、何のんきに新聞なんか読んでんだよ!!」
「……」
父はなおも答えない。
俺は、父の読んでいる新聞を鷲掴みにし、テーブルの上にそれを叩きつけた。
『グシャッ!! バシッ!!』
「新聞なんか読んでないで、働け!!」
「だ、だから、そうしようと……」
そう言う父の視線の先には、テーブルの上の新聞があった。
俺がその新聞に目を落とすと、そこには……、
『仕事探し』、『求人募集』の文字が虚しく並んでいた……。
そう、父が新聞を真剣に読んでいたのは、求人欄で『職』を探していたからだ……。
俺は、負けた……。
俺の考えたお年玉金額UP理論は、脆くも崩れ去った……。
そう……。俺は、コロナで父がリストラされるリスクや、父の収入が『0』になるリスクを、この計算ロジックの中に埋め込んでいなかったのだ……。
それに気付いた瞬間、リビングの床に、力なく膝から崩れ落ちた。
「終わった……。何もかも、終わった……。俺のこの1年間の苦労が全て無駄になった……」
すると、父は新聞の求人欄を指差してこう言う。
「あっ、この新聞に載っている警備員のバイト、お父さんと一緒にやってみないか……?」
俺は、一瞬、父を睨みつけだが、父の怯える顔を見て、すぐに気持ちが吹っ切れた。
「ふふっ……。ああ、いいよ。その代わり、高校だけは卒業させてくれ……」
そう言うのが精一杯だった。
父も母も辛いはず。
そう思うと、これ以上父と母を責めることができなかった。
俺の1年間に及ぶ『お年玉』金額UPの目論見は、見事にはずれた……。
俺の大好きな愛しの『ハニーちゃん』との夢のデートは、まだ当分、先になりそうだ……。
そう思いながら、父からもらったその『お年玉袋』を、そっと胸ポケットに仕舞った。
リビングを出て自分の部屋に戻ると、徐にベッドにダイブし、布団を被りながら、こう叫んだ……。
「ハニーちゃーーーーーーんっ!!」と……。
『お年玉¥ラプソディ♪……』
END
最初のコメントを投稿しよう!