【 第9話: 紙切れ 】

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【 第9話: 紙切れ 】

 俺の『ステップアップ★ボーナスチャンス』。  俺の『夢の1万円大台』。  そして、俺の愛しの『ハニーちゃん♥』。  このお年玉で、俺は全てを手にすることができる。 「ふふふっ……」  入っている。やはり一枚だ。  この紙の感触。一万円か……。 「んっ?」  何だ……。お札の紙質じゃない……? 「(お札じゃない!! 真っ白なただの紙だ!! 何だ!? どうした!? 何が起きている!?)」  俺は、その折り畳まれている真っ白な紙を開く。 『ガサガサ……』  そこには、こんな文字が……。 『ごめん。今年のお年玉は無い。ここで働いてくれないか。電話番号は、xxxx……』 「は、ははは……、父さん、母さん、これ何かの冗談だよね……?」  すると、母が軽がるしく、こう口を開く。 「冗談じゃないから、今年はお年玉無しだから……」 「何でだよ! 俺の『ステップアップ★ボーナスチャンス』は!? 俺の愛しの『ハニーちゃん』はどうなるんだよ!!」 「何……? そのステップ何とか、ハニー何とかって言うのは……?」 「あ~、もうそんなのどうでもいいから、俺のお年玉『1万円』をくれよ」 「だから、今年はお年玉は無いんだよ」 「何でそうなっちゃうんだよ! 去年は『5千円』くれたじゃないか!」  すると、母は一つ大きなため息をつきながら、こんな衝撃的なことを発した。 「はーっ……。お父さんが、コロナの影響でリストラに会っちゃって、今収入が『(ゼロ)』だから、今年はお年玉無し」 「はぁ!? コロナでリストラ!? 収入『ゼロ』!? お年玉無し!? どういうことだよ!!」 「だから、お父さんが無職になっちゃって、給料がなくなっちゃったから、お年玉なんてあげられないのよ」 「そ、そ、そんな……」  俺は、父の方を見た。  父は、新聞を読むふりをしているのか、顔色が分からないように、新聞で顔を隠しているようだ。  父と母との間にも、どことなく変な緊張感が漂っていた……。
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