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その1:最後の授業
教室では、生徒たちが和やかに談笑している。
快活な者だけでなくいつもは会話の輪に参加しない者まで、笑顔を浮かべながら今後の予定を話していた。
黒板には花びらが舞う桜の絵がチョークで描かれ、『卒業おめでとう』の文字が踊る。
生徒たちは、まもなく巣立ちの時を迎えようとしていた。
「よーし、みんなちょっといいかー」
戸を開けて入ってきた白髪の教師が、生徒たちに声をかける。
しゃべっていた生徒は黙り、席を離れていた生徒は自分の席に戻ってから黙った。
その早さに教師は笑顔を見せる。
「おっ…さすがに最後ともなると、みんな言うこと聞いてくれるな」
「せんせー、最後とか言わないでよ。さみしいじゃーん」
女子生徒のひとりが口をとがらせる。
これに教師は苦笑を浮かべつつ、「すまんすまん」と軽く返した。
そこへ、制服を着崩した男子生徒がニヤリと笑いながら皮肉を飛ばす。
「先生もうオジイチャンだから、デリカシーとか知らねーんだよな」
「おい中山」
教師が男子生徒を真顔で見据える。
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