その2:赤い空の下で

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 その手で厚さと重さを確認すると、不思議そうな表情で男に尋ねた。 「ちょっと多すぎるようですが?」 「いやあ、こんなへんぴなところへ来てもらうだけでも申し訳ないのに、厄介な仕事をお願いさせてもらったんです。せめてこのくらいはさせてください…」  学校は山の上にある。  男は、ここを含めたいくつかの山を所有する地主だった。  その地主から報酬を受け取った教師は、本物の教師ではない。 「…拓馬陽堂 直親(たくまようどう なおちか)先生」  地主が口にしたその名は、霊を鎮める鎮魂師ともいうべき存在を指す。  直親は地主に依頼され、学校に巣食う霊を祓ってきたところだった。  霊とは一体誰のことを指すのか?  実は中山を含めた生徒たちこそが霊であり、自覚もなく人を襲う厄介な存在だった。  学校はすでに廃校となって久しい。直親と地主を含めた全てのものが今浴びている陽の赤は、夕陽ではなく朝陽である。  最後の授業とは、直親が生徒たちを空へ還すために用意したセレモニーだったのだ。 「先生役はもう終わりました。今の私はただの老人です」
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