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「そうですか。じゃあ後ろもお願いします」
直親は後ろを向く。
正面の時と同じように両手を広げた。
「!」
地主の目が何かを見つける。
それは青白い手だった。
直親の背中から、枯れ木のように細い腕が不自然に飛び出している。手はその先端にあった。
地主はあわてて直親に報告しようとする。
すると青白い手が素早く伸び、地主の口元を覆った。
その直後、手の甲が裂けて新たな口が生まれる。
「こっちもないですね」
偽りの口が、地主の声を真似た。
それを聞いた直親は、疑うことなく彼へと向き直る。
「確認していただいて助かりました」
「いえ…」
地主が輪郭のぼやけた声で返事をする。
封筒から1万円札1枚を取り出すと、直親に差し出した。
「ではこれ、1万円…」
「ありがとうございます。それでは失礼します」
報酬を受け取った直親は、地主に頭を下げる。廃校から去っていった。
それから約30分後。
直親は、草むらの中に倒れていた。
「くっ…! うう」
苦しげに胸をかきむしる。
「い、異常は…なかったはず……!」
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