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地主は確かにそう言った。
だからこそ自分は金を受け取り、帰路についたのだ。
だが異常がなければ、これほど苦しむ理由がわからない。
「ぐああっ!」
直親の背中が裂ける。
中に潜んでいた青白い手が、草むらの中に這い出た。
青白い手は指を使うことで移動し、直親から離れていく。
「いかん、このままでは…!」
直親はどうにか捕まえようとする。
しかし、裂けた背中が生み出す激痛により何もできない。傷口から吹き出す血液の赤が、凶手の色を変えることすらなかった。
自由を手に入れた青白い手は草むらを抜ける。崖のような場所に出た。
そこはトンネルの入口だった。青白い手はトンネル入口の真上にいた。
朝陽の力強い光が一面に広がる空とは対照的に、トンネルの中は暗い。その暗がりに向かって、さびついたレールが伸びている。
レールに暗がりの黒が差すかどうかという境目に、小太りな男が立っていた。
「み、みんな…よってたかって僕をいじめて…うぅ」
小太りな男は、トンネルを見ながらつぶやいている。暗がりが恐ろしいのか、体を震わせるばかりで歩き出す気配はない。
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