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青白い手が、小太りな男に上から狙いをつけた。
獲物はそれに気づかない。迷いを吐き出さんとばかりに早口でしゃべっている。
「こうなったらもう死んでやる…! 今までは怖くて死ねなかったけど、この先に自殺の名所があるらしいから、そこまで行けば…!」
自殺の名所とは、直親がつい先ほど霊を祓ってきた廃校のことだった。小太りな男はそこで死ぬつもりらしい。
だが暗がりが恐ろしければ、死ぬのはもっと恐ろしいはずである。暗がりとさびついたレールは死へと続いているのだ。トンネルの中に入っていけないのも無理はない。
「そこまで行けばきっと死ねる、きっと…きっときっと…! でも怖い、うぅ…」
小太りな男はその場で何度も足踏みをする。
そこへ、青白い手が垂れ落ちた。
「うっ!?」
小太りな男はのどが詰まったような声をあげる。頭に何かが入り込んだ気持ち悪さで、目を白黒させた。
しばらくすると、その顔から気弱な相が消える。
「…殺す……殺してやる」
口から出たのは明確な殺意。
今の今まで自殺を考えていた者が発すべきものではなかった。
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