1人が本棚に入れています
本棚に追加
そんな理不尽を振りかざして怒る大人も多いが、教師は怒ることなくただうなずいてみせた。中山がその動作を見ることはないとわかっていても、構うことなくそうした。
他の生徒たちに対しても、教師の態度が変わることはない。
「かしこまっていたら、自分の中に生まれた疑問に気づけないこともある。みんなも楽にするといい」
「そういうことなら…」
戸惑いつつではあったが、他の生徒たちも少しだけ姿勢を崩す。
リラックスした雰囲気が教室を満たした時、教師はそっと彼らに告げた。
「では、『最後の授業』を始めよう」
この授業に指導要領はない。いわば教師の談話である。
高校を卒業した生徒たちは、進学であれ就職であれ、大人社会という大海へ船出することになる。
そんな彼らへのはなむけとして、教師はこんなテーマを選んだ。
「君たちは疑問に思ったことはないか? なんで悪いことをしてはいけないのか…と」
「…!」
寝ているはずの中山が、肩をピクリと震わせる。他の生徒たちもただ聞き流すということはできずに、隣の生徒と小声で話し始めた。
教師が提示した疑問は、いわば禁忌である。
最初のコメントを投稿しよう!