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「なぜ悪いことをしてはいけないのか?」
子どもがそう問うたところで、
「悪いから悪いのだ」
大人はそう返すばかり。
理由が明示されないため、子どもは理解したくてもそれができない。
教えてほしいと問い続ければ、うるさいと大人に怒られてしまう。
答えを教えてもらえない上に怒られるとなれば、いいことなど何もない。
まさに禁忌だった。口に出してはいけない疑問だった。子どもたちは苦い薬を飲み下すように沈黙を決め込み、その疑問から目を背けた。
それを、大人の代表ともいえる教師が問うてきたのである。まだ子どもと呼ばれることの多い生徒たちがざわつくのも無理はない。
しかも教師は、全体に問うだけではなかった。
「じゃあ、酒井。なんでだと思う?」
「えっ…!」
酒井と呼ばれた男子生徒が、戸惑いながら立ち上がろうとする。
教師はそれを止めた。
「ああ、立たなくていいぞ。わからないならわからないでいい。素直な答えを聞かせてくれ」
「えっと…」
酒井は考え込む。
まさか当てられるとは思わなかったのもあり、考えがまとまらない。
彼は素直にこう答えた。
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