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「えっ? お、おでん? えっと…大根?」
「おおっ、三上は大人だなあ」
「ええっ、そうかな? 普通じゃない?」
「先生は若い頃、大根があまり好きじゃなかったんだ」
「そうなの? いがーい」
「大根はだしがしみてるけど、独特のクセがあるだろう? あれがどうにも苦手でなあ」
「へえ…あっ、でも若い頃ってことは、今は…」
「ああ、今はとても好きだ。こんなに好きになるなんて、若い頃には想像もできなかったよ」
教師はそう言って微笑むと、顔の向きを三上から生徒一同へと変える。
「若い頃に好きじゃなかったものが、年を取ってから好きになる。似たようなことが君たちにもいずれ起こる…これは本当に驚くべき実感なんだ。たとえ家と職場を往復するだけの生活になっても、新鮮な変化を人生に与えてくれる」
「……」
生徒たちは黙って聞いている。
ただ、その顔に表れる疑問の色は少しずつ濃くなり始めていた。
万引きと依存の話はどこに行ったのか。
テーマの答えである『依存の可能性を自分の中に生まれさせないようにするため』とは、要するにどういうことなのか。
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