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それがわからない教師ではない。
「もし若い時に…つい出来心だとしても…万引きをすればその経験が残る」
彼は今まで浮かべていた笑顔を消し、声をわずかに低くした。
「悪いことというのはスリルに満ちている。成功させればとても楽しい。歳を取れば嫌いなものだって好きになるかもしれないのに、そんなスリルを大人になって思い出せばどうなるか」
「……!」
にわかに張り詰めた教師の言葉に、生徒たちの顔が青くなる。
寝ているはずの中山までもが、緊張してかその手を握り込む。
教師は、この反応を生み出すために回り道をしてきたのだ。
彼は満を持して、生徒たち全員に向かって断言する。
「もう自分では止められなくなる。やめようと思ってもやめられなくなるんだ」
それは種が芽吹き、花を咲かせるようなものだった。
花が咲けば、もう自分では止められない。一度治まったように見えても、それは花が枯れて新たな種がまかれただけなのだ。
最初の種と新たな種の数が、同じとは限らない。
芽吹いて花が咲くまでの早さも、同じとは限らない。
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