その1:最後の授業

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 気づいた時にはもう駆除できないほど多くの花に取り囲まれ、自分の意志という名の養分を吸い取られることになる。 「人間は、どんな刺激にもある程度は慣れる。万引きがどれほどスリルに満ちていても、いずれ慣れてしまう。そうすると、もっと強い刺激を求めるようになる…終わりがないんだ」 「終わりが、ない…」  生徒のひとりがおそるおそるつぶやいた。  教師はそちらに顔を向け「その通り」とうなずく。その生徒だけに語って追い込む形にならないよう、あらためて生徒全員を見渡した上で続きを口にした。 「どれだけ盗んでも満足しない。また盗みたくなる。体はずいぶん大人になって、やりたいことだってあったはずなのに…気がつけば、店の人やおまわりさんに怒られている。そんなことが本当に起こる。でも君たちにはそうなってほしくない」  だからこそ、と教師は微笑んでみせる。 「悪いことをしちゃいけないと先生は思う。そしてそれを、君たちに伝えたいと思ったんだ」  種を植えなければ、芽吹くことはない。  芽吹くことがなければ、花が咲くこともない。
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