その1:最後の授業

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 悪いことが生み出す刺激に、最初から触れないようにする。これこそ、望まぬ依存を遠ざける最も確実な方法だった。 「先生は君たちよりも長く生きてきた。その分、後悔したことも多い。君たちが失敗しないよう、後悔から得た教訓を教えてあげたいが…全部を教えるには時間が足りないし、君たちも聞いてられないだろう」  良薬は口に苦しと言うように、先達の忠告はやかましく聞こえるものである。教師はそれをよくわかっていた。そのため、聞いてられないだろうという言葉とともに苦笑を漏らす。  苦笑はすぐに、心からの笑顔に取って代わられた。 「だから、なぜ悪いことをしてはいけないのか…それだけを話させてもらった。いつか君たちが道を踏み外しそうになった時、この話を聞いたという記憶が花開くことを願って……」  芽吹き花が咲くのは、悪いことばかりではない。  教師は最後の授業を良い種として植えることで、生徒たちの未来に幸あれとエールを送る。  巣立ち直前ということもあり、エールを素直に受け取る生徒は多い。中には感動して頬を紅潮させる者もいた。  だが教師に拍手が送られることはない。 「先生よォ!」
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