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床へと降り注ぐ光を、黒樹はじっと見つめる。
眩しいほどではないけれど、キラキラしている。
「ただいま」
扉が開く音とそこにつけられた鈴の音が、声と一緒に聞こえた。
視線をやることなく、ため息をつく。
「……おかえり」
帰ってきたのは同居人だ。何度言っても、玄関ではなく店から帰宅する。
「楓……」
名前を呼ぶと、続ける前に謝罪が返ってきた。
「あー、ハイハイ。悪かったよ、玄関から入らなくて」
「わかってるなら、直してよね。そもそも、僕が言おうとしたことはそれじゃない」
「違うの?」
黒樹は、天窓から差す光を指差した。
「そこに、立ってみて」
「え?」
訝しげな顔をしつつも、楓はその言葉に従った。
室内に揺らめく光の中に立ち、足元を見たあと天窓を見上げてみた。光が降ってくる。眩しい。
「ここが何?」
改めて立ったことはないが、別にいつもと違うわけではないようだ。修理が必要な様子もない。
「眩しい?」
「眩しいな」
「……そう」
楓は、眉間にシワを寄せて黒樹を振り返った。
「なに?怒ってる?」
「怒ってない。楓なら、そこが似合うだろうなーって思っただけ。やっぱり、似合うね、楓」
背が高い。そこそこいい顔をしている。人好きの雰囲気をして、おまけに、明るい表情と明るい髪の色をして、同じ色の瞳をした男。
この男は、「運命の人」を捜していた。
この辺りにいると答えたら、居ついてしまった。
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