エブリーネ

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 夫婦とはいえ、パソコンやスマホの覗き見はよくないと分かっている。でも、スカートが風になびけば目がひきつけられるのは男の性。そんな気持ちで、横目にモニターを覗き見る。 ******** 「みちゃこぉ、好きだよ」  一瞬、笑ってしまいそうになるほど甘ったるい不自然な声で、モカトが囁く。同時に、左手がバスタオル越しに胸へ触れ、続いて右手がタオルの裾から侵入する。  過去に女性経験は無いことが、モカトのぎこちない手つきに表れている。  まるで中学生男子のように、女性のばせ方もばせ方も知らない攻め方。不慣れな手つきで的外れなところを触ったり、気持ち良さよりも痛みを与えてきたり。まるで、AVをお手本にしたような。  インターネットが今ほど身近になる前は、こんな男が当たり前だったと懐かしさを感じる。そんな若い頃の感覚が蘇り、みちゃこはむしろスイッチが入る。  モカトの頭を両腕で抱きしめ、顔を胸に押し付けると、この30歳の男が少年であるかのように錯覚し、無性にいとおしくなる。そのまま体重を預けるように、モカトをゆっくりと布団に押し倒した。 **********  横目にのぞき見する程度のはずが、食い入るように読んでしまった。真知子が書いたとは信じがたい官能的な文章。そのなまめかしさとはアンマッチな、『みちゃこ』という主人公の名前の響きがなんとも言えない。『モカト』という男性の名前も、どんな漢字なのか分からない現代っぽさを感じる。  ついつい右手がマウスに延びかけたところで、スクリーンセーバーが起動する。突然の画面の切り替りに、僕はハッとした。次の瞬間、浴室の扉が開く音が聴こえて、逃げるように寝室に入る。  見てはいけないものを盗み見た罪悪感と興奮を、スーツと一緒に脱ぎ捨てる。部屋着と何食わぬ顔に着替え、リビングの扉を開けた。 「ただいま、真知子」  バスタオルに身をくるんだ真知子は、僕がいることに驚く。同時に慌てた様子でパソコンを見る。モニターがスクリーンセーバになっていることを確認したのだろう。すぐに笑顔でこたえてくれた。 「お帰りなさい、早かったのね」  
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