エブリーネ

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 冷蔵庫からビールを取り出す。最近、我が家の定番ビールはラガーからドライに変わった。僕は銘柄に拘らないので、真知子が好きな方でよい。  真知子は夕飯をレンジで温め、テーブルに並べながら大きなあくびをした。 「ごめん、ちょっと疲れているみたい。先に寝るね」  肉じゃがとカレーライス。付き合っていた頃、よく作ってくれた真知子の得意料理。  半年ほど前から、僕の出張明けや夜勤明けにこれが出てくることが増えた。スパイシーなカレーの香りと、ラップを開けた瞬間に噴き出す肉じゃがの湯気は、疲れた身体を癒してくれる。  ビールを2缶飲み終えたところで、眠気を感じた。資源ゴミ用の袋に空き缶を投げ入れると、カランと軽い音が聞こえた。その瞬間、ヒヤリとする。ゴミ出しは、僕が担当する家事。資源ゴミの回収日は第2、4の金曜日。うっかり捨てるのを怠ると溢れかえってしまう。慌ててごみ箱をのぞき込むと、空き缶が数本。昨日の朝、真知子がゴミ出ししてくれたのだろうと安堵する。  元々、真知子は掃除や片付けが苦手で部屋を散らかしやすい。仕事を辞めた頃から、更に悪化した。恐らく心の影響だったのだろう。しかし、最近は定期的に掃除をしているようだ。特に、僕が出張や夜勤明けで疲れて帰って来ると、部屋が片付いていることが多い。そういうところに、真知子の優しさを感じる。  僕もベッドに入ったが、なかなか寝付けない。さっき盗み見てしまった小説が頭に何度も浮かぶ。眠れないことを意識したとたんに、色々なことが気になってしまう、  隣のベッドから聞こえてくる真知子の寝息。視線を向けると、窓から差し込む薄明りに照らされている。いつもは寝相がいいのに、今日は寝乱れている。腹の辺りから毛布が端に寄せられ、薄手のスウェットに陰影をつける胸が、呼吸に合わせて上下する。  ドクンドクンと血行が早くなる。僕は、真知子の寝姿に対し興奮している。
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