高橋という男

2/9
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
 アイドルのメンバーは多ければ多いほど良い。自分がより稼げるからだ。  手始めに「人気アイドルグループ〇〇のメンバー、△△について調べてみた! 出身高校は? 彼氏はいる?」とかタイトルをつけて、ネット上で拾ってきた情報を乗っける。勿論なんのソースもない。著作権も、肖像権も全て無視する。中身がない記事であることがばれないように、出来るだけ大袈裟に改行して、勝手に本人の写真を使用したりする。  ブログの上と下に広告スペースをつくったら、それで、終わり。それをグループの人数分。その情報が間違っていようがいまいが、高橋にとっては何の関係もないことだ。もう一生そのページには触らない。  本人が炎上しても、グループを引退しても、何なら死亡したとしても、こちらとしては「ブログの検索数が伸びるからありがたいな」程度の話だ。コメント欄に「なんの根拠もない」とか「無断転載やめて。削除してください」とか書かれて、批判されても(そもそも見もしないのだが)高橋は特に意に介しない。訪問してくれてありがとうございます、広告費いくらぶんになるかなあとか考えるだけだ。  最低だ、最低だけど、こんな楽な商売が他にどこにある?  毎日毎日満員電車に揺られて、上司にぶつくさ文句を言われながら、特に誰にも感謝されず働き倒して、家に帰ったら妻と娘に邪見に扱われて、冷えた飯を食べるような、そんな人生より遥かにましだ。  余計な感情が、欲やこだわりが、人を縛って苦しめる。人生は常に何らかのルーティンワークであるが、その材料は出来るだけ少なく、小さく回るべしというのが高橋の信条だ。必死になって働いている者たちからすれば、高橋が本当に腹立たしい存在であることは、容易に想像がつく。  「インターネットの普及により強靭に成長してゆくグローバル市場」。そんな報道がされ始めて何年になるだろう? その更なる発展には、それなりの期待がされてきた。まさに今は「インターネット時代」、これから先伸びてゆく企業とはずばりインターネットの網をかいくぐり情報戦に打ち勝つことの出来る企業だろう。いつかの新聞の受け売りだ。インターネットの、明るい部分……それだけではないのを、きっとみんなわかっているはずなのに。みんな知らんぷりをするのだ。どんな明るいインターネットが望まれたとしても、高橋のような人間が生き長らえる理由もインターネットにある。高橋はインターネットを不健康に利用している張本人でありながら、利便性を高めることは常に正しく、清いことではないのだなと思った。全ての物事が、善悪どちらかに収まればいいのに。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!