高橋という男

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 高橋も、その父親も、似たようなろくでもない生き方をしてきた。祖父も、曾祖父も、そのずっと前も……時代が移り変わっていくにつれて、稼ぎ方は変わるけれど、中身は同じだ。  皆、高橋と同じように、誰かの努力にあやかって生活していた。  自分が製造していないものを幾つも拾い上げ、組み合わせ、販売するのだ。その組み合わせが、いかにもオリジナルであるように、狭い世界を、醜く這って、そうやって生活してきたのだ。  祖父は、近所の家に山ほど生っている柿を少しずつ盗み、ばれないように隣町で売った。馬鹿の多い街だよ、と毎日酒を飲みながら言ったらしい。  父親は、そんな祖父を馬鹿にしていた。あいつは馬鹿だ、狡いことばかりする、俺の方がずっと賢いのだと、酒が回ってくると決まって言った。そんな風に陰口を叩いても、自分が相手より偉いということにはならないのに。近所のスーパーマーケットで安売りされている2Lパックの焼酎を、限界まで水道水で薄めて飲む、これもお決まりだ。家じゅう安い酒の匂いがしていて、きっと異様だった。  そんな父は、その時々流行っていた音楽をレコーダーで録って、CDに焼いて安く販売した。おそらく一枚二百円くらいだったと思う。音楽は、家電量販店のテレビで流れているものや、レコードショップで試聴できるものを録音しただけだから、原価といえばパソコンとCDRの代金くらいか。大体は団地か、公園で高齢者に向けて販売した。ジジババは金が余っているから、使わせてやってるんだ、と聞いてもいないのに言ってきた。
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