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繚吾は頷く。
「ああ、いいぞ。持っていけ」
「ありがとう」
目元を拭って、繚吾は尋ねた。
「そっちの未来は楽しいか?」
「まあ、楽しい。悪いこともそりゃあるけど、私としては以前よりはちょっぴり楽しい」
「そうか、よかった」
「リョウゴは、楽しいか?」
「ああ、幸せだよ」
「そりゃよかった。──今日は、私が楽しくやってる、大丈夫ってことを伝えたかった。お前があのとき、来てくれた礼として。私からお前、いや──あなたへ贈れるのは、せめてこれぐらいだ」
「充分だ。それで充分だ」
「うん」
石月高音はソファーから立ち上がる。
「じゃあ、もう行かねば。また機会があったら会いに行くかもしれん」
「実は新居を見つけたんだ。次会うときは、ここにはもういないぞ」
「大丈夫だ、それでも見つけてみせる」
「楽しみにしてるよ」
「ああ──また、いつかの未来で」
石月高音は手を振った。その姿が瞬時に消えた。
繚吾はもう一度、目元を拭った。
式は来月だ。次に石月高音に会ったら伝えよう。彼女はきっと驚くだろう。
時計の針が、0時になろうとしている。
繚吾は微笑み、その瞬間を待った。
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