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お母さんは、自分のスマホを私に見せた。
そこに表示されているのは、私が創作活動をしているSNSだ。お母さんもアカウントを持っていたらしい。でも、問題はそこじゃない。
「……え? サ、ツキ、さん? おかーさん、が?」
表示されていたアカウント名は、サツキ。私が初期のころから声をかけてもらっている、古株の先輩だった。
お母さんの名前は、芽衣という。
May。
五月。
サツキだ。
「あんた、初期登録したの、パソコンだったでしょ」
「って、じゃあ最初から知ってたの?」
「ごめんね。でも、書いてることを言わないってことは、知られたくないんだなーって思ってさ。だから、未来が自分から言うまでは、知らない振りをしておこうって思ったの」
気持ちはわかるしねー、なんて苦笑いをするお母さんは、声をひそめてこっそり告白した。
若かりしころ、お母さんも、創作活動をしたことがあったらしい。
それから、ヤスについて教えてくれた。
ヤスというのは、お父さんが昔使っていたペンネームなのだ、と。
「ペンネームって?」
「ああ、ジェネレーションギャップがっ。うん、ようするにハンドルネーム、アカウント名。筆名ね」
「お父さんがどうして、そんな名前を? どうしてお母さんがそれを知ってるの?」
「私とお父さん、ジャンルが同じだったのよ。そこで知り合ったの」
「ジャンル……?」
「あー、うん。そこは闇深き混沌の入口だから、あなたは綺麗なままでいなさい。とにかく、お母さんとお父さんは、同じ作品が好きでね、ファン活動みたいなことをしていたわけ。それが出会い」
「はあ……」
創作の世界は、私の知らないことがまだあるらしい。
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