0人が本棚に入れています
本棚に追加
「目が見えるようになるの?!」
「うん。手術すれば見えるようになるって。お医者さんが言ってくれたの」
「そうなんだ。これで、私が必要なくなっちゃうのかぁ」
「そんなことないよお姉ちゃん。いつまでもずっと、そばにいてよ。それにお姉ちゃん。私、目が見えてもすぐに見たくないんだ」
「え? どうして?」
「私ね、初めては海が見たいの。お姉ちゃんが言ってくれた、両手を広げても届かない砂浜に、青い海と青い空が見たい。それをね、初めての、見える目で見たいんだ。だからお姉ちゃん、最後のお願い。そこまで連れて行って。だめ?」
「もちろん。妹の最後のお願いをだめなんて言うわけないじゃん。お姉ちゃんにおまかせ!」
「ありがとう! お姉ちゃん大好き!」
妹は口角を上げて笑うも、私はうまく笑えない。
目が見えたら、バレてしまう。妹についた、たった一つの嘘が。
もし、私が嘘つきだと知ったら。妹は私のことを嫌いになってしまう。
「それで、いつ手術なの?」
「夏休みに入ってすぐ。それから、退院してすぐ海へ行くの」
「そうなんだ。じゃあその最後の約束まで、私は付き合うよ」
「ありがとう」
「困った時はお互い様。それじゃあ、私はそろそろ部屋に戻るね。ちゃんと寝るんだよ?」
「うん。ちゃんと寝るよ。おやすみ、お姉ちゃん」
「うん、おやすみ」
妹とおやすみを言って、私はフラフラと自室に戻った。
ずっと、どうやったらバレないんだろうって。汚いことばかり考えて、気づいたら私は、眠っていた。
次の日、私はいつもより早く起きた。
お父さんもお母さんも妹も。誰もいないリビングは冷たくて寂しくて。
私は気を紛らわすようにテレビを見ていたけど、ニュースばかりですぐに飽きた。
だから、普段は絶対にするのことのない、朝の新聞を取りに行くことにした。
外に出て、ポストから新聞を取ると、向かいのおばさんと目が合う。
おばさんは庭の掃除をしていたけど、私に気づくと手を止めて。ニッコリと笑ってくれた。
私はそんなおばさんを見て、心は一気に澄み渡った。
隠すとか、逃げるとか。悪いようなことばかり考えて、私は大事なことを見失っていた。
掃除をすれば取り戻せる。私は簡単なことに気づけないほど、嘘から逃れようとしていた。
私はおばさんに深く頭を下げて、急いで家へと帰った。
明日から、今からでも掃除をしよう。キレイな砂浜をつくるには、時間がいくらあっても足りない。
私はそう思って、いてもたってもいられなくて。ビニール袋を手に家を飛び出し、ゆるい勾配を下って、海へと走った。
最初のコメントを投稿しよう!